大伴家持と布勢水海―万葉びとの「声」が聞こえる
藤花への讃歌―万葉びとの「声」が聞こえる
藤井 一二
氷見市下田子(しもたご)の藤波(ふじなみ)神社は、初夏の夕暮れ時がよい。
山藤の白く浮かび上がる花房の揺れを眺め、かの『藤の花の精』が宿る多胡の浦辺と、眼前に展開した水海を想像するとき、万葉びとの遊覧した時代と風土に心を重ね合わせることができる。
天平勝宝二年(750)の四月六日(新暦の五月十九日)、大伴家持らは布勢水海(ふせのみずうみ)に遊覧し、長歌と短歌を詠んだ。次は、そのときの一首。
藤浪の 花の盛(さかり)に かくしこそ 浦漕ぎ廻(み)つつ 年にしのはめ
(巻19・4188)
藤奈美能 花盛尓 如此許曾 浦己藝廻都追 年尓之努波米 (元暦校本万葉集)
(藤波の花の盛りに このように 岬を漕ぎ巡りつつ 年ごとに景色を賞美しよう)
〇澤瀉久孝『萬葉集注釋』中央公論社 〇「藤奈美」を澤瀉本は「藤波」、筆者は「藤浪」を採用。
もうすぐ、この季節がやってくる。
もうすぐ、続著原稿の推敲が終わりそうだ‥。 (2023年4月27日)
〇参考:藤井一二「大伴家持と越路の水海」『国立能楽堂』第419号・特集号
〇画像(上)藤波神社(氷見市下田子) ※画像提供は、本誌参照。
〇画像(下)藤波神社の藤の花 ※藤井撮影